ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集
 (フランツ・リスト校訂版とヘンレ版による)


このピアノソナタ全集は、フランツ・リストが1857年に校訂出版したリスト版によるものと、原典版として多く普及しているヘンレ版による2組の全集である。リストという名前を聞くと華麗で超絶な技巧を持ったピアニスト、あるいは作曲家を連想する方もいるかもしれない。しかし、ここでのリストは、そうした超絶技巧を用いたヴィルティーオーソの姿ではなくベートーヴェンの音楽を伝える使途としての姿がある。幼いリストはウィーンでカール・ツェルニーに習い、ベートーヴェンの前で演奏して大変褒められたという逸話もあり、そのような意味でベートーヴェン直系のピアニストであるといえよう。また後年彼はベートーヴェンの作品をヨーロッパ各地で演奏して広め、多くの弟子たちにその演奏スタイルを伝えた功績がある。

さて、このリスト校訂版によるベートーヴェン・ピアノソナタ全集の録音は2011年がリスト生誕200年に当たり、そのモニュメントとして彼の業績のひとつを紹介しようと思いたったからである。 また、リスト校訂版と併せてヘンレ版(原典版)で夫々演奏をしているので両者を比較をしてみると面白いだろう。ふたつの版の音の違い、フレージングの違い、アーティキュレイションの違い、ディナーミクの違い、ペダリングの違い等出来る限り忠実に再現した心算である。だからと言って学術的な演奏を試みたわけではなく、もっとも重要な課題であるベートーヴェンの音楽の表現を試みたのである。なを、これら版の異なる箇所を楽譜をそえて解説してあるので参考にしていただきたい。
 リストの多くの変更点は、彼の音楽的センスと理に適ったもので、それ故に校訂した楽譜より彼の演奏スタイルや音楽的思考を垣間見ることができるでだろう。